DLP Cinema® テクノロジーの登場から 25 周年を祝い、TI で DLP 製品のイノベーションに関わった人々がデジタル シネマ テクノロジーとその未来について考察します
1999 年 5 月 16 日は、「スター・ウォーズ エピソード 1 – ファントム・メナス」の初演により、フィルムからデジタル シネマへの移行が始まった日です。これは、世界で初めて DLP Cinema® テクノロジーを使用してデジタル プロジェクタで公開された映画です。
DLP テクノロジーでは、数百万個ものマイクロミラー群と照射用光源からなるデジタル マイクロミラー デバイス (DMD) を使用して、出力を投影します。
低分解能のプロトタイプから始まった DLP Cinema テクノロジーが、私たちの映画体験だけでなく、無数のアプリケーションのあり方をも変えるまでに至った過程を振り返ってみましょう。
映画産業での DLP® テクノロジー
デジタル ディスプレイが登場する前は、映画製作にはセルロイド製フィルムが用いられていました。フィルムは脆弱で、複製にコストがかかり、破損しないように映画館まで運ぶのが大変でした。以前 TI の DLP® フロント プロジェクションおよび DLP Cinema ビジネス マネージャを務めていた Dave Duncan は、「映画を公開初日から上映できるのは、数千の映画館に限られていました」と語ります。
ニューヨークやロサンゼルスなどの都市ではフィルムが元の状態のまま到着しましたが、小さな町や映画館では、その状態は元通りには程遠いものでした。フィルムのデリケートな特性は、繰り返し使用したり運んだりするたびに、傷などの不具合が生じたことを意味します。「私の故郷であるインディアナ州のウェストラフィエットで上映される頃には、フィルムは傷だらけで色あせていました」と Dave は言います。
1990 年代に、Dave と彼のチームは、映画業界の専門知識を用いてプロトタイプを完成させるために、ハリウッドを訪れました。そこで、映画プロデューサーや監督、撮影技師、配給責任者などのほか、映像の進化を担う技術者たちにも会いました。DLP 製品チームは数か月かけて、得られたフィードバックを取り込みながら、テクノロジーを完成させました。技術者たちがフィルムとデジタル画像を区別できなくなったとき、チームは「自分たちが映画を永久に変えてしまった」ことを知った、と Dave は言います。そして、映画を見に行くすべての観客に一貫した体験を提供できるようになりました。
映画、そして他の分野へ
映画産業は過去 25 年間で劇的な変化を遂げましたが、その間も変わらず DLP テクノロジーは、人々がテクノロジーを体験し、活用する方法に影響を及ぼしてきました。
「DLP テクノロジーをベースとするディスプレイで視聴すると、その明るい色、高いコントラスト、鮮明な画像に注意が引き付けられます。DLP テクノロジーは当初から、常に魅力的で没入的な体験をもたらすことを目指してきました」と、TI の DLP 製品担当副社長兼ジェネラル マネージャである Jeff Marsh は語ります。車載機器、教育、ゲームなど、いくつかの業種や分野にわたって、DLP テクノロジーはユーザーの視覚体験を強化するのに役立っています。
車載分野では、強化された V2P (Vehicle-to-Pedestrian) および V2V (Vehicle-to-Vehicle) 通信とともに、DLP テクノロジーを活用して運転の安全性を高めています。ステアリング連動ヘッドライトは、ヘッドライトをオフにしたり明るさを調整したりすることで、ドライバーが歩行者を視認し、さまざまな状況に適応できるようにします。
教室では、対話型ホワイトボードのようなテクノロジーにより、1 人か 2 人の特定の学生だけがコンテンツにアクセスできるようになります。DLP プロジェクタは、壁全体を対話型ディスプレイにすることで、大人数の学生や教師に対して、より魅力的で包括的な体験を提供します。
DLP テクノロジーは、ビデオ ゲームの楽しみ方も変化させています。新しいディスプレイ製品は以前よりも待ち時間が短縮され、最速のゲーミング モニタにも匹敵するプロジェクタが登場しています。
「私たちは、驚異的なディスプレイ製品を視聴者に提供していますが、ディスプレイとはまったく関係のない光制御製品も生産しています」と、Jeff は言います。これは、プリント基板 (PCB) 製造や産業用 3D プリンティングなどのアプリケーションで使用される DLP テクノロジーを指しています。たとえば、PCB 製造では、DLP の光制御テクノロジーにより、マスク使用リソグラフィーから直接レーザー イメージングへの移行が進んでいます。マスクを使用している場合、設計変更が必要になると、それらを完全に交換する必要があります。また、これらのマスクは劣化し、洗浄や検査など他のコストも発生します。リアルタイムのプログラミングが可能で、高い分解能を持つ DLP テクノロジーにより、直接レーザー イメージングでは総製造コストが低下し、生産された使用可能なユニットの歩留まりも向上します。また、この手法により、高度なパッケージング向けにトレース (電流が流れる導電経路) 間のライン スペーシングを狭くでき、最終的に半導体チップを互いに近づけて配置できるようになります。
産業用 3D プリンティングでは、DLP テクノロジーにより、さまざまな光波長を投影して媒体を溶融または硬化でき、高精度な露光、高い更新速度、信頼性の高い動作につながります。製造に DLP 製品を使用すると、設計サイクルが高速化され、プロトタイプをより速く調整でき、最終的な生産部品のプリンティングにも役立ちます。
今後の展開
現在、約 9 割の映画館が、画質向上のために DLP テクノロジーを使用しています。デジタル プロジェクションや映画で実績を挙げたのと同じ気構えで、DLP チームは一貫して改善や改革の方法を探しています。現在、DLP テクノロジーは、これまで以上にサイズが小さくなり、コストも低下しています。
「拡張現実メガネ、ゲーミング モニタ、自動車の室内投影ディスプレイは、10 年前ならまったく視野に入っていなかったでしょう。テクノロジーを進化させたからこそ、新しい扉が開いたのです」と Jeff は言います。
DLP チームは、その輝かしい歴史と映画にもたらした影響を祝う一方で、未来も見据えています。「プロジェクション ディスプレイは私たちの礎です」と Jeff は言います。「そのおかげで、新しいアプリケーションへと拡張できます。そして、それはまだ始まったばかりなのです」