エネルギーの未来を切り拓く半導体技術
アナログおよび組込みプロセッシング製品は、太陽光発電、エネルギー貯蓄、電気自動車 (EV) の充電システムなどを通じて、スマートで、信頼が高く、より利用しやすい、電動化を実現します

2023 年 6 月 05 日

TI のHarald Parzhuber は、持続可能な生活を支えているのは半導体技術であることを実感すると言います。

Haraldの自宅の屋根には36枚のソーラー パネルが設置されており、太陽光エネルギーから生成された電力を生活に利用しています。家庭用電力に変換するソーラー インバータ、電力を蓄積するバッテリ、ハイブリッド電気自動車のためのEV充電器など、太陽光エネルギーを電力に変換し蓄電を可能にしているのは革新的な半導体の技術なのです。

「再生不能なエネルギーの使用を減らすためには、電動化を推進する必要があります」と、太陽光発電やエネルギー貯蔵(ストレージ)に使われる高電圧の電力変換システムを設計するチームを率いるHarald は語ります。「半導体技術は、エネルギーの生成、貯蓄、消費の方法に変革をもたらしています」

ドイツのミュンヘン近郊にあるHaraldの自宅だけでなく、地域や工場など、コミュニティ全体で持続可能なエネルギーを中心とした発電と消費が実現できるように、構造物レベルや 電力網(グリッド) レベルで同様のシステムが増加し続けています。TIは、システム開発に取り組む設計エンジニアが、より小さく、効率的で、低コストでシステム開発を可能とする技術を提供しています。

 

電力変換:TIのC2000™リアルタイム マイコンは、窒化ガリウム(GaN)やシリコン カーバイド(SiC)FET のようなワイド バンドギャップ デバイスの高電圧システムで一般的に採用されている複雑な電源トポロジにおいて、効率的な電力変換を実現します。

「TIの技術を活用することで、高速かつ低遅延(レイテンシ)にデータを移動できます」と、TIのC2000事業部を統括するMatt Watsonは語ります。「低レイテンシのシグナル チェーンは、熱損失を低減し、サイズの小型化を維持するために、電力送電でできるだけ多くのエネルギーを保持することが重要です。その結果、設計エンジニアは電力効率、電力密度、コストの課題を解決できるようになり、エネルギー効率をより多くの人が利用できるようになります。電力効率とサイズが重要な基準となるエネルギー 蓄電 システムでは、これがますます重要となります」

 

電流と電圧のセンシング:グリッドの安定性や性能を向上し、アプリケーションの性能を最大限高めるには、エネルギーのリアルタイム管理が不可欠です。TIの高精度電流・電圧センシング技術は、精密な測定により、過電圧、過電流、地絡を検出し、安全性を高めることができます。

「エネルギー不足と価格高騰がますます進んでいます」と、TI のグリッド インフラ システムのエンジニアリング事業部でゼネラルマネージャを務める Henrik Mannesson は語ります。「多くの人は、自分のエネルギー消費量とそれに掛かるコストを把握したいと考えています。電流や電圧のセンシング技術により、電力を測定することが可能となり、人々は自宅のソーラー システムで発電したエネルギーを把握し、どのように使用すればよいのか判断できるようになります。ソーラー パネルまたは蓄電地を設置した家庭は、太陽光 エネルギーを消費するだけでなく、蓄電することやグリッドに電力を売ることもできます。このようなエネルギー利用のオプションを誰もが選択できるようにするには、インテリジェンスを実装する必要があります。半導体は電圧と電流の測定を行うソリューションとして重要な役割を果たしています」

 

エッジ処理と通信: アプリケーションは、自動車からグリッドへの電力供給(V2G)やプラグ・アンド・チャージなどの技術を実現するために、使いやすいインターフェースを通じてグリッドや人々に接続する必要があります。TIの 高性能プロセッサは、ローカルコンピューティングでより迅速かつ強固なセキュリティ処理を実行できます。これらのプロセッサを、コネクティビティ製品やソフトウェアと組み合わせることで、マイクロインバータなどのシステム間、また家庭用エネルギー システムと人々の間で、シームレスかつ信頼性の高い通信を実現できます。

「今後は、その時のエネルギー価格によって、買取価格が高い場合はエネルギーを売電し、価格が低い場合はバッテリ内に蓄積する、という判断をするようになるでしょう」と、Henrik は語ります。「スマート メーターまたは家庭用エネルギー システムが記録した価格を参考に、人々はシステムどのように運用するかについて賢い判断を下すことができます」

 

バッテリ マネジメント:グリッドパフォーマンスは、エネルギーハーベスティングと貯蔵、およびピーク時のグリッドへのエネルギー還元によって最適化することができます。TIのバッテリ監視とエネルギー ストレージソリューションは、エネルギーの必要性が最も高いときにエネルギーにアクセスすることができます。

「持続可能な未来は、家庭とグリッド インフラ レベルの電動化に依存しています」と、Henrik は語ります。「最新の再生可能エネルギー アプリケーションには、進化を続けるアナログや組込みプロセッシング製品が採用されており、それらは太陽光発電、エネルギー ストレージ、EV 充電システムの小型化、信頼性確保、低コスト化をさらに推し進めています」

 

再生可能エネルギーによる発電

現在は、世界の多くで枯渇性エネルギーを利用し、発電機から電気を生成しています。例えば、石炭や天然ガス、原子力エネルギーは、水、蒸気、燃焼ガスのような流体を押し出してタービンを回転させます。タービンのシャフトは発電機につながり、電気を生成します。そしてグリッドから、最終的に家庭やオフィスに電力が到達し、人々が壁のスイッチを押すと、照明が点灯します。

一方で、太陽光発電のような再生可能エネルギー源の場合、電力を生み出す発電機を必要としません。太陽光がソーラーパネルに届くとすると、数十億個の電子が放出されます。これらの電子を組み合わせて直流(DC)として利用し、ソーラー インバータに送られます。ここで、半導体は電圧と電流を測定して、エネルギーを制御し、使用方法を決定します。また、そのエネルギーを使用できるように交流(AC)に変換して送電します。照明をつけるなど、ユーザーが直接エネルギーを使用するか、バッテリに蓄積するか、グリッドに送電して全体の電力需要を満たすか、いずれかのエネルギー使用が可能です。

 

電動化へ向けて

再生可能エネルギーの利用は個人の責任に関わることであるとHarald は考えています。

「だれでも最初の 1 歩を踏み出すことができます。電力の使用量を削減するのに規制に頼る必要はありません」と彼は語ります。

Haraldとその妻Alexandraは2018年に自宅を建てる際に、ソーラー パネルを設置できるように設計しました。その 3 年後、屋根には36枚のパネルが設置され、さらにソーラー インバータや、太陽光から取得したエネルギーを蓄積するためのバッテリを設置しました。また、ハイブリッド電気自動車を充電できるように車庫の壁にはチャージャを取り付けました。その結果、グリッドからの電力の使用量は3分の2に減少しました。グリッドから供給される電力は、風力や太陽光のような再生可能エネルギー源を使用して発電されたものです。

エネルギー コストが上昇を続ける中、最近ではHaraldの隣人からソーラー設備の設置や、エネルギー使用量をどれほど削減できたのかについて相談をうけるようになりました。

「多くの人は、自らのエネルギー使用量や、そのエネルギー源についてもっと意識したいと思うものです」と、彼は語ります。「誰もがこのように考えるようになれば、より広い範囲に影響を与えることができます。私はこのことに熱い情熱を抱いています」