インダストリ 4.0 の導入障壁を引き下げる、新しいコネクティビティ技術

最新のファクトリにおけるネットワーク アーキテクチャは進化を続けており、効率性、安全性、持続可能性の向上を実現させています

21 9月 2023

過去数十年間で、ネットワーク コネクティビティがインテリジェンス化されたことにより、サーモスタットから交通信号まで、あらゆるものが強化され、都市、家庭、職場にまで普及してきました。コネクティビティとデジタル化、つまりインダストリ 4.0 の進化を通じて、製造メーカー各社がいかにして生産性を向上させるかを検討する中で、この進化はファクトリの現場にも普及してきました。

「エッジ ノードや端末をインターネットに接続することで、多くの人は家庭内でのオートメーション(自動化)を体験してきました」と、TI の高速データ (HSD) 事業部のバイス プレジデント兼ゼネラル マネージャを務める Ahmed Salem は語ります。「同様に、インダストリ 4.0 では、情報技術分野における革新を運用技術と結び付けることによって、製造システムのさらなるスマート化と自律化を可能とします」

インダストリ 3.0 では、従来の重工業分野で採用されてきた、囲いの中のロボットが限られた回数の反復作業しか行わなかったのに対し、インダストリ 4.0 では、安全かつ自律的に動作できる非常にスマートなロボットが、人間と協力して動作し、自動車や航空機の主翼や尾翼から、スマートフォンやノート PC まで多様な機器の組み立てに関与します。

速度と信頼性の間のトレードオフを解決

最新のファクトリでのネットワーク アーキテクチャは、Time-Sensitive Networking(TSN)、EtherCAT、Profinet などの業界標準やプロトコルの継続的な開発を通じて、効率性、安全性、持続可能性の向上を目指す傾向があります。

「一般家庭の場合、同期の問題やデータの消失は、フラストレーションを感じる程度で済みます」と、Ahmed は語ります。「一方、産業用オートメーションの場合、データ損失の影響は、コスト増大から致命的な事態まで多岐にわたる可能性があるため、信頼性の高い通信が不可欠となります」

制御信号を伝送する際に生じる数ミリ秒 (ms) の想定外の遅延といったシンプルな事態でさえも、それが原因で圧縮天然ガスを取り扱う機械の非動機動作につながった場合、永続的な損傷を招くおそれがあります。最悪の場合、コネクティビティが切断されたことが原因で、ロボット アームが制御不能の危険な状態に陥る可能性があります。

このような理由で、ファクトリはこれまで、設定された時間枠内で、すべての制御信号の配信を保証する、確定的な通信方法を備えた実証済みの通信テクノロジに依存してきました。ただし、この種のテクノロジは大半の場合、低速という短所があります。センサを多数使用するインテリジェント制御のシステムの利点を活用するには、高速かつ大量の情報を受け渡す必要がありますが、低速な通信はそのような情報の受け渡しを妨げます。

一方、イーサネットは、高度なオートメーションが必要とする帯域幅を長期間にわたって実現してきました。その最大速度は、10、100、さらに 1,000Mbps に達します。EtherCAT と Profinet は、産業用の環境課題を解決できるように専用設計を採用した産業用イーサネット プロトコルの例です。産業用通信を新規導入する場合に産業用イーサネットを採用する比率は、2016 年の 38%1 から、2023 年の 68%2 に増加しました。

加えて、TSN 規格の策定に伴い、制御ネットワークの一部としてイーサネットが一般的な選択肢になりました。規定した時間枠内での伝送を保証するために、この規格は、高精度の分散型クロックや、時間確定型の制御メッセージに対する自動的な優先順位設定のような機能を規定していたからです。

TI の幅広い製品ラインアップは、有線とワイヤレス両方でこれらのコネクティビティ ソリューションを取り揃えています。これらは実績のあるテスト済みの製品で、産業用、車載、規制に関連する最高水準の規格に適合します。

 

従来型インフラと組み合わせた場合の動作

より新しいプロトコルや TSN の策定に伴い、イーサネットが産業用制御の環境で使用可能になった一方で、実際の採用にあたって、導入コストが障壁になってきました。

従来、イーサネットは複数のツイストペア ケーブルを前提とした設計であり、ケーブルの最大長も 100 メートルほどでした。これは、メーカー各社がイーサネットの導入を検討する際に、すべてのケーブル配線を置き換える必要に加え、場合によってはファクトリ全体のレイアウトを変更する必要が生じることを意味します。従来のレイアウトは、ケーブルの長さが最大で数 km に達することを許容する、シングルペア テクノロジを前提としていたためです。

大半のメーカーには、高額なインフラを交換するために、数週間にわたって製造ラインを停止する余裕はありません。そのため、ファクトリの既存のケーブルを使用して動作することができる、シングルペア イーサネットの開発が、イーサネット導入の鍵になってきました。

「シングルペアは、製造ファクトリの建設方法を抜本的に変更することなく、容易に導入できる設計を採用したイーサネットの 1 つのバージョンです」と、業界コンソーシアムのイーサネット アライアンス (Ethernet Alliance)議長を務める Peter Jones 氏は語ります。「このバージョンは、ファクトリが最新の ITに適合することを要求する代わりに、ファクトリの担当者に対して、『何がご希望で、どのようにお手伝いすればよいでしょうか?』と具体的に問いかけることができます」

TI は Ethernet Alliance のメンバーであり、シングルペア、マルチペア、光ファイバ ケーブルをサポートする多様な物理層トランシーバを取り揃え、多様な形態の産業用イーサネットの策定を支援できるように取り組んでいます。これらの製品の採用で、オートメーション システムの設計者は以下の TI 製品を選定することができます。1 つは、高速かつ低レイテンシで、10/100Mbps と 10/100/1000Mbps に対応する産業用トランシーバである DP838x です。もう 1 つは、2km のケーブル長に対応できるシングルペア トランシーバである DP83TD510 です。すべてのトランシーバは、ファクトリ環境で生じる高温や電磁ノイズに耐えることができます。

TI のエキスパートが、予防保守や TSN など、コネクテッド ファクトリの最新の通信トレンドについて解説するほか、インダストリ 4.0 で生じるデジタル化とコネクティビティのニーズを満たせるように、イーサネットが引き続き、ファクトリの進化をどのようにリードしているかについてご紹介します。

 

製造業の未来を効率化

業界の未来を形作るのは、継続的なプロセスです。複雑なセンサのいっそうの低コスト化が進み、AI 機能がより洗練されるにつれて、通信帯域幅の引き上げに対する需要も増加しています。

これらの課題は同時に、より持続可能で、より効率的な製造プロセスを作り上げる機会ももたらしています。

TI の AM6xA プロセッサ製品ラインアップのように、エッジ AI をサポートする設計を採用した各種プロセッサは、集中型のプログラマブル ロジック コントローラ (PLC) との通信を不要にする可能性もあります。マシン ビジョンのアルゴリズムをローカルで実行すると、ロボットは人間のすぐ近くで動作することができるうえ、人間から学習することも可能になります。たとえば、一連の組み立て作業を実行するときに、1 人の組み立て担当者が特定の順序を好むことが明らかになった場合、ロボットはそれに対応し、その順序に合わせて支援を行うことができます。

より長期的な観点では、インダストリ 4.0 には、センサ、アクチュエータ、それらを繋げる通信インフラなどの重要なシステムの継続的な監視や、メンテナンスや修理が必要になる時期を自動的に予測する予測分析機能の導入も関係します。

より新しいビジョン ベースのロボット システムの場合、V3Link のようなテクノロジを採用すると、低レイテンシ、同期、スケーラブル、無圧縮のビデオ伝送を導入できます。このような動画情報は、ファクトリの現場での事故防止に役立ちます。

ロボットが、人間や他のロボットとの連携を向上させるために必要なのは、高度なローカル処理能力や、信頼性の高い屋内位置特定システムとのワイヤレス コネクティビティです (Wi-FiBluetooth Low Energy (BLE)Sub-1Ghz / BLE に関連する主なオプションをご覧ください)。

「メンテナンスのためにファクトリを停止することは、コストの増大を招きます」と、Ahmed は語ります。「周期的なスケジュールで運用している場合、必要の有無にかかわらず、定期的にメンテナンスを実施する必要があります。それに対し、予防保守とは、必要なときにのみメンテナンスを実施することを意味します。その結果、不必要なダウンタイムや無駄を回避することができます」

安全性、効率、持続可能性の改善は、メーカー各社にとっての付随的な利点よりも重要な意味を持ちます。「21 世紀の課題に対してより的確に対処できるように、私たちがシステムを最適化する方法を検討している中で、このような改善は重要なステップになります」と、TI のプロセッサ部門のバイス プレジデント兼ゼネラル マネージャーを務める Roland Sperlich は語ります。

「私の考えでは、今後 10 年にわたって消費電力への取り組み方を刷新するために、センサ テクノロジとエッジ AI に注目する動きが始まります。たとえば、ファクトリの一部をダイナミックな方法で停止し、その後、それらが必要になったとき迅速にオンライン状態へ復帰させることが可能です」と、彼は語ります。「世界中の国々が、人口増加や過度に拡大した電力グリッドへの対応というニーズに直面しています。TI のお客様が希望し、私たち人類全体が必要としている省電力化を実現するうえで、このような技術革新は不可欠になるでしょう」

 

1参考『Industrial network market shares 2016』 (2016 年の産業用ネットワーク市場シェア) 30 June 2016 (Control Drives and Automation)
2参考『Industrial network market shares 2023』 (2023 年の産業用ネットワーク市場シェア) 05 May 2023 (HMS)