車載ネットワークに適したシームレスなコネクティビティ

車載通信を向上させるゾーン アーキテクチャの設計トレンド

25 4月 2024

私たちと自動車との関わり方は、エレクトロニクスによって絶えず進化しています。内蔵型のナビゲーションやハンズフリー通話が素晴らしい機能と考えられていた時代から、私たちは長い道のりを歩んできました。

今日の車両には革新的なテクノロジーが搭載され、インテリジェンス、電動化、安全性の向上のために数百または数千個の半導体を搭載しています。半導体チップは、エアコン付きシートからカスタム ライティング効果に至るまで、より高いレベルの快適性を実現しています。一部の車両では、複数のタッチスクリーンやスマートフォンのアプリがこれらの機能をサポートしています。

現在はソフトウェア ディファインド ビークルの時代であり、自動車市場の主要なトレンドにもなっています。自動車メーカーはこの流れに沿って、サービス、パーソナライズ、利便性をより高い水準へと引き上げることができます。

もちろん、安全性は依然として最優先であり、約 93% の新車には少なくとも1つの先進運転支援システム (ADAS) 機能が搭載されています[1]。ADAS は年間最大 160 万件の衝突事故を防止し、最大 367 億ドルの損害を防ぐであろうと推定されています[2]。これらの数字は、半導体が自動車にもたらす ADAS やコネクティビティ機能の進歩なしには実現が困難でした。

車載分野のもうひとつのトレンドであるゾーン アーキテクチャは、ソフトウェア ディファインド ビークルの実現に役立ちます。ドメイン アーキテクチャがウィンドウや温度設定などの機能ごとにグループ化を行うのに対し、ゾーン アーキテクチャはフロント、車室内、リアなどの場所ごとに複数の電子制御ユニット (ECU) をグループ化します。場所をベースとする ECU をゾーン コントロール モジュールとも呼びますが、これらは、既存および新しいネットワーク インターフェイスを活用して、自動車のハードウェアとソフトウェア アーキテクチャを集中化するためのものです。

「自動車業界におけるアーキテクチャの移行が進みつつあり、それに伴う通信の全般的なニーズに対応するうえで、TI は有利な立場にあります」と、TI の車載インターフェイス担当バイス プレジデントを務める Tsedeniya Abraham は語ります。「TIは、設計者がゾーン アーキテクチャに必要な、データ管理と簡素化を実現できるようサポートします」

 

ケーブル配線の削減とプロトコルの活用

車載センサとアクチュエータの数が増えることで、車内で送信されるデータの量も増加します。各 ECU は、センサ、アクチュエータ、他の ECU との通信を行い、モーションや安全機能を高精度で実行する必要があります。これには従来、電力とデータを伝送するために多くの太いケーブルが必要とされました。

幸いなことに、ゾーン アーキテクチャにより、ケーブル配線、重量、コストが低減され、ソフトウェア ディファインド ビークルの的確な最適化が可能になります。このように増加を続けるデータ量を整理するうえで、コントローラ エリア ネットワーク (CAN) や Local Interconnect Network (LIN) などの従来から使用されてきた通信プロトコルは欠かせません。

たとえば、イーサネットで実現できる超高速かつ超低レイテンシという特性は、事故防止などの安全性が重要な通信をサポートします。CAN や LIN などのコスト効率の優れたプロトコルは、ウィンドウの上げ下げ、シート温度の調整、パワー ステアリングなど、より低帯域幅のコネクティビティに最適な場合があります。

「高速データ送信にとって、複数のゾーン コントロール モジュールを接続するイーサネットが最善であるのに対し、CAN または LIN は、各ゾーン内の最後の1マイルにとって効率的かつ高速な選択肢です」と、Tsedeniya は述べています。

最も要求の厳しいビデオ転送要件の場合、FPD-Link™ プロトコルは現在、1 本のケーブルで最大 13.5Gbps の伝送が可能です。これは、車幅いっぱいに高解像度のディスプレイを設置して映像を継続的に表示する場合(ピラー トゥ ピラー ディスプレイ:Pillar-to-Pillar Display)で、十分な値です。

安全を考慮したTI の FPD-Link シリアライザとデシリアライザ (SerDes) は、非圧縮のカメラ データを送信できる十分な速度を達成しており、自動車がより多くの ADAS 機能を搭載するのに伴い、この速度は重要な利点になります。

画像を処理して反応するシステムの機能を妨げる可能性を持つ視覚的なアーティファクト(虚像)を軽減するには、非圧縮データが不可欠です。FPD-Link は双方向でもあるため、システムは画像を受信している間でもカメラを制御できます。

 

今後を見据えて

さまざまなプロトコルを統合する必要性こそが、ゾーン アーキテクチャへの移行に対応するために自動車メーカー各社が TI の幅広い車載通信デバイス ファミリへの切り替えを進めている理由のひとつです。

ワイヤレスもまた、魅力的な特長です。「一部の消費者はすでに、ワイヤレス アップデートの性能や利便性を活用しています。これにより、リコールが発生した場合でも、自動車をディーラーなどの店舗に持ち込む必要がなくなります」と、TI の車載システム エンジニアリングおよびマーケティング担当ディレクターを務める Fern Yoon は述べています。

ソフトウェア ディファインド ビークルのビジョンをサポートするゾーン アーキテクチャにより、自動車メーカーは、ドライバー向けのパーソナライズ、安全性、利便性を次のレベルに引き上げることができます。

「TI は、現在と未来の車載アーキテクチャのトレンドに対応するための投資を続けています」と、Tsedeniya は述べています。

 

参考:
[1] AAA.January 2019. (2019 年 1 月)“ADVANCED DRIVER ASSISTANCE TECHNOLOGY NAMES.” (先進運転支援テクノロジーの名称) 2024 年 3 月 25 日アクセス
[2] Khana, Abdullah, Corey D. Harper, Chris T. Hendrick, Constantine Samaras. Net-societal and net-private benefits of some existing vehicle crash avoidance technologies. (いくつかの既存の車載事故防止テクノロジーがもたらす社会全体と個人全体の利益) Accident Analysis & Prevention 第 125 号 (2019 年 4 月) 207 ~ 216 ページ 掲載