エネルギー ストレージの採用を推進するバッテリ システムの半導体イノベーション
要点
- 従来の電力グリッドの設計では、新しいタイプの電力需給に対応できない
- バッテリ エネルギー ストレージ システムはグリッドを変革し保護するための鍵となる
- バッテリ管理と高電圧向け半導体イノベーションにより、グリッドはバッテリ ストレージを最大限に活用できる
電気自動車 (EV) の普及拡大と再生可能エネルギー源への移行が進む中、1 世紀以上にわたり続いてきた化石燃料への依存は減少しつつあります。電力会社は、EV 充電用の電力の割合が増えただけではなく、一般家庭や企業向けの電力として、天然ガスを燃料とするタービンからソーラー パネルや風力のタービンによる給電への切り替えを進めています。持続可能なエネルギーの未来へ近づこうという傾向にあります。
それと同時に、このような傾向は電力グリッドに関する大きな課題を浮き彫りにしています。電力への需要は 1 日の中で大きく変化する場合があるだけでなく、ソーラー エネルギーと風力エネルギーは天候の変化によって電力供給が左右されます。そのため、バッテリはグリッドには欠かせない重要なコンポーネントになりつつあります。
バージニア工科大学でパワー エレクトロニクスを教え、グリッドとエネルギー業界に 25 年間携わってきた Richard Zhang 教授は「空が曇ったときや風がやんだときに、バッテリがそのギャップを埋めることができます」と説明します。「バッテリは、オフピーク時に電力を蓄え、ピーク時に EV を充電できるため、電力を経済的に改善することができます」
グリッドを流れる大電力を、安全で確実かつ優れたコスト効率でバッテリに蓄電/放電することは困難です。TI の専門知識に基づく高度なバッテリ管理半導体ソリューションは、このような複雑な課題に対して大きな違いをもたらすことができます。「グリッド向けの大型高電圧バッテリでは、より適切な熱管理とより精密な監視が必要です」と TI のバイスプレジデント兼バッテリ管理ソリューション事業部のゼネラル マネージャを務める Samuel Wong は述べます。「こうしたバッテリを効果的に管理するには、バッテリの化学を理解し、高性能半導体デバイスをバッテリに適合させ、安全性を確保しながら、それぞれのバッテリの性能を最大限に活用する必要があります」
グリッドの平滑化
ソーラー発電や風力発電、EV の採用は地球にとって良いニュースだと Zhang 教授は言います。問題は、元々のグリッド設計では利用可能なエネルギーに対する新しいタイプの電力需要に対応していないということです。
「EV への乗り替えは、数年前よりも簡単になっています」とZang教授は言います。「現在、その他のエネルギー需要と並んで、新しい電力インフラを確保することが大きな問題になっています」
Samuelによると、グリッドの不安定性、つまり発電量と使用量の変動が課題であるといいます。ソーラー発電や風力発電では、エネルギーの供給量が変動します。特に夜間ではソーラー発電はまったく機能しません。EVを充電するタイミングも、需要と供給の不安定さの原因になる可能性があります。
「もし、夕方帰宅したすべての人が夜間に EV を充電しようとすれば、グリッドでは対処できないでしょう」とSamuel は言います。
バッテリ エネルギー ストレージ システムの影響について議論する TI のバッテリ管理ソリューション事業部のバイス プレジデントを務める Samuel Wong (左) とバージニア工科大学の Richard Zhang 教授
電力に関する多くの専門家と同様に Samuel と Richard教授は、グリッドの不安定性に対するソリューションは、エネルギー ストレージ システム (ESS)であると示しています。通常、バッテリ形式のストレージ システムは、電力供給が多く需要が少ない際にグリッドの余剰エネルギーを蓄積し、それ以外の時間帯では、蓄電したエネルギーを提供します。バッテリと言うと、EV で使用するような比較的小型で軽量のバッテリ セルを想像するかもしれませんが、グリッドの場合、ESS は鉄道車両もあるような大型サイズで、重量のあるセルで構成されます。各セルは 4 メガワット時 (MWh) で動作する能力を備えることもあり、数千軒もの家庭用電力を十分にまかなうことができます。
グリッドのさまざまな場所にストレージ システムを設置すると、システムの能力を最適化でき、必要なときに必要な周辺地域に大量の電力を供給できます。たとえば、ソーラー パネル ファームの近くに ESS を配置すれば、日中は余剰エネルギーを蓄積し、夜間にはそのエネルギーをグリッドに供給できます。また、コミュニティに ESS を設置した場合、そのコミュニティ内に設置されたソーラー パネルからエネルギーを集めて、EV を充電するための余分の電力を供給することがより簡単になります。「ESS はコミュニティのためのローカル電気貯蔵庫として機能します」と Samuel は言います。
バッテリとシステム性能の管理
ストレージ システムの心臓部は高電圧バッテリ モジュールです。通常このモジュールは、リン酸鉄リチウムイオン セルであり、充電または放電を急速に行うと大量の熱が発生します。また、これらのモジュールは、完全放電を頻繁に繰り返すと寿命が短くなる可能性があります。
これらのバッテリの温度と充電状態を監視するには、『BQ79616』 産業用バッテリ モニタなどの非常に精密な半導体が必要になると Samuel は言います。これは、温度や電圧のごく小さな変動でも、バッテリに注意を払う必要が生じる可能性があるためです。
「バッテリにどの程度の充電残量があるかを把握するには、mV 単位の精度が必要になります」と Samuelは説明します。
超高精度のバッテリ モニタに関して TIは豊富な経験があり、ESS 業界が重要なバッテリ管理データをグリッドに供給できるシステムを構築するうえで欠かせません。TI の経験を活用すれば、グリッド ESS のコスト効率の面で大きなメリットが得られると Samuel は説明します。
「10MWh の ESS の充電状況を 5% の精度でしか測定できなければ、9.5MWh を超える電力を安全に使用できません。TIのバッテリ モニタは 1% の精度で測定できるため、9.9MWh の電力を使用することができます」
ソーラー パネル ファームと統合されているものを含め、グリッド スケールのエネルギー ストレージ システムには、バッテリの正確な監視が必要なだけでなく、グリッドとの間で送電する際に電力損失を低減する効率的な高電圧電力変換機能が必要です。また、これらのシステムでは1,500V に達するような電流を管理する際に、安全性と安定性を維持するためのセンシングと絶縁テクノロジーが不可欠です。
未来への影響
近い将来、バッテリ ESS のイノベーションは、太陽光や風力エネルギー、さらに EV 充電による変動からグリッドを変革し、保護するための鍵になると考えられています。
「エネルギー ストレージのイノベーションを通じてグリッドの強化に貢献できるのは、本当に素晴らしいことです」と Samuel は言います。「TIは、これまでにも多くの成果を上げていますが、今後、スマート グリッドの構築が進む中で、さらに多くのことを実現できることでしょう」